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「メロスは激怒した。」という書き出しで知られる、太宰治の『走れメロス』。教科書で読んだという人も多いですよね。でも、大人になってから読み返すと、「あれ、メロスってこんなに迷っていたの?」「王の言葉にも意外な重みがある」と、気づくことがたくさんあります。
この記事では、青空文庫で公開されている『走れメロス』の本文(底本:「太宰治全集3」ちくま文庫、筑摩書房)をもとに、作品の中の名言4つを、場面とあわせて読んでいきます。引用はすべて青空文庫の本文からです。
※名言の受け止め方は、読む人によって違います。この記事の読み方は一つの例として、ぜひ原文も読んでみてください。
走れメロスの基本
どんなお話?
本文によると、メロスは村の牧人で、十六の内気な妹と二人暮らしです。妹の結婚式のための買い物で、十里はなれたシラクスの市にやって来ました。ところが、まちの様子がおかしい。老爺に聞くと、王様が「人を、信ずる事が出来ぬ」と言って、人を次々に殺しているというのです。
激怒したメロスは王城に入り、捕まってしまいます。メロスは、妹の結婚式を挙げるために三日間の日限を求め、竹馬の友セリヌンティウスを人質として置いていくことを申し出ます。三日目の日没までに帰って来なければ、友が殺される、という約束です。
有名な書き出し
本文は「メロスは激怒した。」と始まり、メロスは「かの邪智暴虐の王を除かなければならぬと決意した」と続きます。そして「メロスには政治がわからぬ。」という一文が置かれています。続けて「笛を吹き、羊と遊んで暮して来た。けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。」と書かれています。
王の話を聞いたメロスは、買い物を背負ったまま「のそのそ」王城に入っていき、すぐに捕まってしまいます。本文には「メロスは、単純な男であった。」ともあります。完璧な英雄ではなく、まっすぐで少し向こう見ずな人物として描かれているのがわかりますね。
登場人物
| 人物 | 本文での説明 |
|---|---|
| メロス | 村の牧人。政治はわからないが、邪悪に対しては人一倍敏感 |
| セリヌンティウス | メロスの竹馬の友。シラクスの市で石工をしている |
| ディオニス | 人を信じることができず、人を殺し続ける王 |
| 妹 | 十六の内気な妹。村の律気な牧人と結婚する |
| フィロストラトス | セリヌンティウスの弟子の若い石工 |
物語の最後に書かれていること
本文の最後には「(古伝説と、シルレルの詩から。)」と書かれています。青空文庫の図書カードには、入力・校正をしたボランティアの名前や公開日(2000年12月4日公開)も記されています。
走れメロスの名言4つ
ここからは、本文の中から4つの言葉を選び、どんな場面で言われたのかを見ていきます。
1. 「人の心を疑うのは、最も恥ずべき悪徳だ。」
王の前に引き出されたメロスが、王に向かって言う言葉です。メロスは続けて「王は、民の忠誠をさえ疑って居られる。」と言います。
これに対して王は、「疑うのが、正当の心構えなのだと、わしに教えてくれたのは、おまえたちだ。人の心は、あてにならない。人間は、もともと私慾のかたまりさ。信じては、ならぬ。」と答え、「わしだって、平和を望んでいるのだが。」とため息をつきます。
物語の始まりで、「信じる」メロスと「疑う」王の考えが、はっきりぶつかる場面です。王にも王なりの理由があるように書かれているのが、読み返すと印象に残ります。
2. 「友と友の間の信実は、この世で一ばん誇るべき宝なのだからな。」
濁流を泳ぎ切り、山賊を倒したあと、メロスは疲れ切って動けなくなります。草原に寝ころがり、「もう、どうでもいい」とまで考えてしまう場面の中で、セリヌンティウスに語りかけるように出てくる言葉です。
この場面のメロスは、「ああ、もういっそ、悪徳者として生き伸びてやろうか。」とまで思います。英雄のように走り続けるだけでなく、心が折れそうになる姿が、本文にはっきり書かれているのです。それでも、友との信実を「一ばん誇るべき宝」と言っているところに、メロスの本当の気持ちが表れているように読めます。
3. 「信じられているから走るのだ。」
湧き水を飲んで立ち直り、再び走り出したメロスに、セリヌンティウスの弟子フィロストラトスが「もう、駄目でございます。」「走るのは、やめて下さい。」と叫びます。それに対するメロスの答えが、次の言葉です。
「それだから、走るのだ。信じられているから走るのだ。間に合う、間に合わぬは問題でないのだ。人の命も問題でないのだ。私は、なんだか、もっと恐ろしく大きいものの為に走っているのだ。」
フィロストラトスは、セリヌンティウスが刑場に引き出されても「メロスは来ます、とだけ答え」ていたと伝えます。友に信じられていることが、メロスを走らせる力になっている場面です。
4. 「信実とは、決して空虚な妄想ではなかった。」
刑場に間に合ったメロスとセリヌンティウスは、互いに一度ずつ相手を疑ったことを打ち明け、頬を殴り合ってから抱き合います。その様子を見ていた王ディオニスが、二人に近づいて言う言葉です。
「おまえらの望みは叶ったぞ。おまえらは、わしの心に勝ったのだ。信実とは、決して空虚な妄想ではなかった。どうか、わしをも仲間に入れてくれまいか。」
人を信じることができなかった王が、最後に「仲間に入れてくれまいか」と願う。物語の始まりの王の言葉と比べて読むと、変化がよくわかります。
4つの名言のまとめ
| 名言 | 話した人 | 場面 |
|---|---|---|
| 1. 人の心を疑うのは、最も恥ずべき悪徳だ。 | メロス | 王の前に引き出されたとき |
| 2. 友と友の間の信実は、この世で一ばん誇るべき宝 | メロス | 疲れ切って動けなくなったとき |
| 3. 信じられているから走るのだ。 | メロス | フィロストラトスに止められたとき |
| 4. 信実とは、決して空虚な妄想ではなかった。 | ディオニス | 刑場で二人が抱き合ったあと |
名言の前後もあわせて読もう
二人とも一度は疑った
刑場の場面で、メロスは「私は、途中で一度、悪い夢を見た。」と言い、セリヌンティウスに自分を殴るよう頼みます。セリヌンティウスもまた、「私はこの三日の間、たった一度だけ、ちらと君を疑った。生れて、はじめて君を疑った。」と打ち明けます。
信じ合う二人の物語でありながら、二人とも一度は疑ったことを隠さずに言い合う。そのうえで「ありがとう、友よ。」と二人同時に言って抱き合うところが、この作品の大切な場面の一つです。
「走れ! メロス。」
作品の題名にもつながる言葉は、湧き水を飲んで立ち直る場面に出てきます。「私は、信頼に報いなければならぬ。いまはただその一事だ。走れ! メロス。」と、メロスが自分自身に呼びかけているのです。題名の「走れメロス」が、誰かからの命令ではなく、自分を励ます言葉として本文に出てくると知ると、題名の印象も少し変わりますね。
最後の一行
物語は、王の言葉と群衆の歓声のあと、ひとりの少女が緋のマントをメロスに捧げる場面で終わります。セリヌンティウスに「メロス、君は、まっぱだかじゃないか。」と教えられ、最後の一文は「勇者は、ひどく赤面した。」です。緊張の続いた物語が、少しほほえましい場面で締めくくられています。
名言につながる場面をもう少し
妹への言葉
村で妹の結婚式を挙げたあと、メロスは花嫁になった妹にこう言います。
「おまえの兄の、一ばんきらいなものは、人を疑う事と、それから、嘘をつく事だ。おまえも、それは、知っているね。亭主との間に、どんな秘密でも作ってはならぬ。」
王の前で言った「人の心を疑うのは、最も恥ずべき悪徳だ。」と、ちゃんとつながっていますね。花婿にも「メロスの弟になったことを誇ってくれ。」と声をかけています。祝宴の場面では、メロスが「一生このままここにいたい、と思った。」と書かれていて、未練を感じながらも出発を決意したことがわかります。
王の本心
メロスが人質を申し出たとき、本文には王の心の中も書かれています。王は、どうせ帰って来ないと思い、だまされたふりをして放してやるのも面白い、身代りの男を三日目に殺してやるのも気味がいい、と考えます。そして「人は、これだから信じられぬ」と、悲しい顔をして見せつけてやりたい、と思っているのです。
さらに王は、メロスに「ちょっとおくれて来るがいい。おまえの罪は、永遠にゆるしてやろうぞ。」とささやきます。このささやきは、のちにメロスが動けなくなったとき、「王は私に、ちょっとおくれて来い、と耳打ちした。」と思い出す言葉になります。最後の王の「信実とは、決して空虚な妄想ではなかった。」は、この本心と比べて読むと、変化の大きさがよくわかります。
三つの試練
村を出たメロスには、次々と試練が待っていました。
| 試練 | 本文の場面 |
|---|---|
| 濁流 | 前日の豪雨で川が氾濫し、橋が壊れていた。メロスは泳いで対岸へ |
| 山賊 | 峠で一隊の山賊が現れる。メロスは三人を殴り倒して峠を下る |
| 疲労 | 午後の灼熱の太陽の下で、ついに膝を折って動けなくなる |
山賊に出会ったとき、メロスは「さては、王の命令で、ここで私を待ち伏せしていたのだな。」と言っています。三つめの試練は、外からではなく自分の心の中から来たものでした。湧き水を飲んで「歩ける。行こう。」と立ち直ったあと、メロスは「先刻の、あの悪魔の囁きは、あれは夢だ。悪い夢だ。」と自分に言い聞かせます。
走れメロスのよくある質問
メロスは何日で戻って来た?
本文では、王は「三日目には日没までに帰って来い。」と言っています。メロスは出発した夜に一睡もせず十里の路を急ぎ、翌日の午前に村に着きました。結婚式は次の日の真昼に行われ、メロスはその翌日の薄明の頃に村を出て、陽が地平線に沈もうとしたときに刑場に飛び込みました。
村からシラクスまでの距離は?
本文では、メロスの村からシラクスの市までは「十里」と書かれています。メロスは往復でこの道のりを急ぎ、帰り道では濁流や山賊に行く手をふさがれました。帰り道の途中、「ぶらぶら歩いて二里行き三里行き、そろそろ全里程の半ばに到達した頃」に、壊れた橋の前で足が止まったと書かれています。
青空文庫で読めるのはどの本の本文?
青空文庫の本文には、底本は「太宰治全集3」ちくま文庫(筑摩書房)、底本の親本は「筑摩全集類聚版太宰治全集」(筑摩書房)と書かれています。
メロスはなぜ走るのをやめなかった?
本文では、メロスは「間に合う、間に合わぬは問題でないのだ。」と言い、「もっと恐ろしく大きいものの為に走っている」と語っています。何のために走るのかを、本文の言葉から自分なりに考えてみるのも、この作品の楽しみ方の一つです。
走れメロスの名言4つを原文で味わおう
最後に、4つの名言をもう一度まとめます。
- 「人の心を疑うのは、最も恥ずべき悪徳だ。」
- 「友と友の間の信実は、この世で一ばん誇るべき宝なのだからな。」
- 「信じられているから走るのだ。」
- 「信実とは、決して空虚な妄想ではなかった。」
名言だけを切り取るのではなく、前後の場面と一緒に読むと、メロスの迷いや王の変化がよりはっきり見えてきます。短い作品なので、ぜひ原文を通して読んでみてくださいね。