『ツェねずみ』のねずみ捕りは、最初からだましていた?三晩の違いを読む

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ねずみ捕りが、ねずみをやさしく呼んでいる。そんなの、入ったら捕まるに決まっているでしょ……と思ったら、ツェねずみは餌を食べ、外へ出てきます。

あれ。ちゃんと帰れた。

宮沢賢治『ツェねずみ』の終盤は、最初から罠が予定どおり成功した話として読むと、二晩の出来事を見落とします。 ねずみ捕りは、はじめは本当に入口を閉じず、最後には怒りで体を震わせてしまうのです。

結末まで触れます。先に物語を読みたい人は、青空文庫の公開本文へどうぞ。短いお話ですが、ねずみ捕りの側にも気持ちの動きがあります。

目次

最初の二晩は、食べて、帰れている

ツェねずみは、うまくいかないことがあるたび、周囲へ埋め合わせを求めます。いたちから金米糖の場所を教わっても、蟻がいて取れなければ、いたちを責める。冬の寝具になるものを教えてくれた柱にも、運ぶ途中で転ぶと、償いを求める。

動物に相手にされなくなると、柱などの道具と付き合い、そこでも埋め合わせを求める。その先に、ねずみ捕りとの付き合いが始まります。

ここで意外なのは、語り手が、ねずみ捕りにも人間への不満があり、ねずみに同情していると説明すること。道具だから、ただの仕掛けだから、と気持ちのない脇役にはしていません。

一晩目、ツェねずみは半ぺんを食べて帰ります。このときはお礼も言う。翌晩は鰯を食べ、やはり外へ出てきます。

ところが二晩目には、来てあげた、食べてあげる、という言い方に変わっています。食べ物をもらう側なのに、訪問してやっている側へ。入口が閉まっていない間にも、二人の関係は変わっていたんですね。

三晩目は、下男の怒りとねずみの不満が重なる

餌だけなくなり、ねずみが捕まらない。人間の下男は腹を立て、ねずみ捕りがねずみから賄賂をもらったのでは、と疑います。賄賂とは、ここでは手心を加えてもらう見返りのことです。

ねずみ捕りは否定します。でも、その声は下男に聞こえません。

そこへ来たツェねずみまで、通ってくる手間や餌の内容に不満を言う。その晩の半ぺんは、実際に腐っています。本文にそう書かれている点は、飛ばさずに読みたいところです。

腐った餌に怒ったねずみが、また償いを求める。ねずみ捕りも怒って震え、餌についていたかぎが外れ、入口が閉まる。この順です。

扉が閉まる直前に注目すると、ねずみ捕りが怒って体を鳴らし、それで仕掛けが動くところまで描かれています。最後の捕獲だけでなく、そのきっかけまで本文で確かめられるんです。

しかも最後は、捕まったねずみだけでなく、ねずみ捕りも痛みと怒りで震えたまま朝を迎えます。下男の喜びと、二人の夜。その違いまで見ると、単純にめでたしとは言いにくい結末です。

紙で読みたいなら、同じ題名でも版と状態を見て選ぼう

講談社には、宮沢賢治・文、三木由記子・絵の『ツェねずみ』があります。出版社の書誌で、紙版のISBNは9784061881860と確認できます。同じ物語を絵本でも読みたい場合の候補です。

講談社の絵本『ツェねずみ』の掲載を楽天で確認する

今回確認した販売掲載は中古で、カバーなし・全体に汚れありという説明でした。新品のつもりで選ばず、購入時の状態を確認してください。絵や紙面は今回確認していないので、その表現の感想までは紹介していません。

まず無料の本文で読み返すだけでも大丈夫です。最初の呼びかけ、二度目の訪問、入口が閉じる直前。三か所で、ねずみとねずみ捕りがそれぞれ何をしているか、追ってみてください。

最後に捕まった、だけでは見えなかった二晩と、閉じてしまう一瞬。その間にある言葉と動きが、この話の怖さをじわっと変えてくれます。

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人間関係や日々の気持ちを見つめ直すための言葉と考え方を取り上げる編集室です。言葉を引用するときは、出典を確かめて紹介します。

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