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トロッコに乗れたら、どんなに面白いだろう。
芥川龍之介の『トロッコ』は、そんな八歳の良平の憧れから始まります。トロッコは、線路の上で土などを運ぶ小さな車のことです。
けれど、帰り道の場面では、乗れた喜びだけでは済まなくなる。
二人の土工、土木工事をする働き手が告げたのは、今日は向こうに泊まる、という予定でした。
ここで、良平が思い描いていた帰り方と、二人の仕事の予定を並べてみよう。以下は結末まで触れる読解です。青空文庫の原文をもとに、場面の順をたどります。
「帰りに又乗る所が多い」と考えていた
良平は、一度、ほかの子供たちと無断でトロッコを動かし、土工に叱られています。
その後に出会う若い二人は、良平に押すことを許し、力があると褒めてもくれる。良平が親しみやすいと感じ、後には優しい人たちだと思う相手です。
坂を上るとき、良平は長く押していられることを喜びます。そして乗せてもらうと、帰りにも乗る場所が多いだろうと考える。
原文には、こんな思いが書かれています。
「行きに押す所が多ければ、帰りに又乗る所が多い」
行く道と戻る道を、良平は一続きに思い描いているんだね。読む側も、二人と一緒に行って、一緒に戻れるような気分にならないかな。
でも、その帰りの予定を、二人と相談して決めた場面はありません。ここを目に留めて先へ進むと、後の一言の響きが変わってきます。
遠くへ来た不安のあとに、泊まる予定が分かる
良平が遠くへ来すぎたと感じるのは、二人の言葉を聞くより前。海が見えるところまで来たときです。
もう戻ってほしいと思っても、二人の仕事は続く。茶店で休む間も、良平は帰ることを気にしています。
そして告げられるのが、「今日は向う泊り」という言葉。
ああ、一緒の道を進んでいても、帰りの予定は同じではなかったんだ。
良平には、暗くなる道を一人で歩いて戻る必要が、一度にはっきりします。
ここを、二人が最初から良平をだますつもりだった話として読むと、原文にはない意図を足してしまいます。一方、良平にとっての心細さも、そのまま読んでおきたい。
親しみを感じたことと、帰り方まで分かっていたこと。その間のずれが、短い一言で表に出る。そんな読み方ができる場面です。
家へ着いたあとも、話は続く
良平は走り、家の門口へ着いてから大声で泣き出します。ああ、帰れた。そこでほっとして本を閉じたくなるかもしれないね。
けれど最後には、二十六歳で妻子と東京へ来た良平が登場します。雑誌社で働く彼の前に、あの薄暗い道がまた現れるように語られるんです。
子供の冒険が終わっても、心細かった道の記憶は、その後の暮らしの中へつながっている。最後の段落まで読むと、ただの危ない遠出の話には収まらなくなります。
紙で読み返すなら、新潮文庫『蜘蛛の糸・杜子春』に『トロッコ』の収録を確認できます。新潮社の目次と、本の識別番号であるISBN9784101025032を、楽天の中古掲載と照合しました。
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青空文庫の今回の本文も、同名の新潮文庫を底本としています。中古本の状態や、届く版の表示は商品ごとに確認してね。
読み返すときは、帰りにも乗れると考える良平と、「向う泊り」を告げる二人を、続けて見てみよう。
あの楽しかった往き道が、どこから心細い帰り道へ変わったのか。一つの予定を目印にすると、その変わり方を追いやすくなるよ。