『羅生門』の下人はなぜ変わった?「すれば」と二つの勇気、最後の一文を読む

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『羅生門』の最後まで読んで、「えっ、さっきまで老婆に怒っていたのに、今度は自分が奪うの?」と引っかかった人へ。そこ、急いで「人間はみんな身勝手」で閉じなくていいんです。下人が何をためらい、何に怒り、どの時点で態度を変えたか。順番を見ていくと、短い結末までの動きがかなり細かく書かれています。

先に答えを言うと、下人は、門の下では盗人になる決心がつかず、楼の上では老婆の行いに激しく反発し、その後、老婆が語った「生きるために仕方がない」という説明を、自分が奪うときの理由へ向けます。ただ、途中には、相手の生死を握っていると気づき、怒りが冷める場面もある。老婆の説明を聞く前から、心は動いているんだよね。

この記事では、青空文庫の新字新仮名版『羅生門』を、冒頭から結末まで確認して読みます。結末にも触れます。解釈を一つの正解として押しつけるためではなく、本文のどこからそう読めるかを、一緒にたどるための読み方です。

目次

雨を待っているようで、帰る場所がない。「すれば」に残るためらい

物語の始まりでは、下人が門の下で雨やみを待っています。でも、その説明は途中で言い直されます。雨がやんだとしても、行く当てがない。長く仕えていた主人から、四、五日前に暇を出されているからです。

同じ場所で雨を見ていても、帰る家があって雨脚を気にしている人と、雨の後にどこへ行けばよいか分からない人とでは、状況が違うよね。小説は最初の短い説明へ、後からその違いを加えていきます。

ここ、天気の描写だけだと思って通り過ぎないでほしいところ。荒れた京都、修理されない門、引き取り手のない死者という周囲の説明も、下人の明日の暮らしが立たないことにつながっています。景色だけを遠くから眺める読み方から、そこで今夜を過ごす人を見る読み方へ、焦点が寄っていくんです。

下人は、手段を選んでいれば飢えて死ぬ、と考えます。それなら選ばなければよい、と思考は進みかける。でも、そこで残るのが「すれば」という形です。

条件のところまで来ても、その先の行動を自分で引き受けきれない。語りは、盗人になるほかないと積極的に認める勇気が出ない、と説明しています。だから、この段階の下人を「もう盗人になると決めた人」としてしまうと、まだ終えていない迷いを先に片づけてしまいます。

読書メモなら、「考えていること」と「実際にしたこと」を二段に分けてみよう。考えでは、手段を選ばず生き延びる方向へ寄っている。行動では、まだ誰かから何かを奪っていない。そこでまず探すのは、雨風と人目を避けて一晩寝られる場所です。

上へ登る理由も、この順番で見ると分かります。悪事を見つけて成敗しようと、最初から調べに来たわけではありません。夜を明かせそうな場所を求めて、梯子へ足をかける。その先で、思いがけず火の光を見つけます。

紙で前後へ戻りながら読むなら、新潮文庫『羅生門・鼻』が候補になります。新潮社の紹介で『羅生門』の収録を確認しました。この記事で照合している本文は青空文庫版なので、文庫の注釈やページの位置まで同じだという案内ではありません。

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老婆に怒る下人は、その理由をまだ聞いていない

楼の上には死骸があり、老婆がその髪を抜いています。下人は最初、恐怖と好奇心に動かされていますが、髪が抜けるのを見ているうちに、恐怖より怒りが強まっていきます。

面白いのは、語りが、老婆そのものへの憎悪と書きかけた後で、それだけでは足りないと説明し直すことです。下人の中で、悪というものへの反感が強くなっている。目の前の一人への感情が、自分は悪を許さない、という大きな気持ちへ広がっていくように読めます。

そこで、門の下の迷いを思い出してみよう。さっきまでは、盗人になる以外に生きる道はないか、と考えていた人です。その人が、この瞬間には、同じ問いを出されたら飢え死にを選ぶだろう、とまで書かれる。

うわ、逆の方へずいぶん強く動くんだね。けれど、ここで老婆がなぜ髪を抜くのか、下人はまだ知りません。

本文は、その理由を知らないので理屈として善悪を決められない、としながら、下人にとってはその行為そのものが許せない悪だった、と続けます。この二つを片方だけにしないで読みたい。十分な事情を知って判断した、という順ではないんです。目の前の光景に反発し、その勢いで動きます。

さらに、自分が盗人になることを考えていた点は、もう忘れていると説明されます。「悪を憎んでいるのだから、この人はずっと善人だった」と最初へ戻して読むと、ここで記された忘れ方が見えにくくなるよね。

ただし、逆に「全部うそだった」と決めつけるのも急ぎすぎです。語りには、その時点で怒りが強まっている様子が書かれています。後の行動を知った読者が、前の感情まで存在しなかったことにしなくてもよい。強い怒りがあったことと、それがその後まで同じ方向に保たれることは、別だからです。

読み直すときは、老婆が説明を始める位置を見つけ、その前後に線を引くつもりで区切ってみて。説明前にも、恐怖、好奇心、怒り、行動という段階があります。「老婆の言葉で変わった」とまとめる前に、まずここまでを別の場面として見てみよう。

恐怖から怒りへ変わる場面を読む『羅生門・鼻』を確認する

相手を支配できると分かったら、怒りはいったん冷める

下人は老婆の逃げ道をふさぎ、つかみ合いの末に腕を押さえます。それから太刀を抜き、何をしていたのか答えるよう迫る。ここは、話を落ち着いて聞くために声をかけた、という出会いではありません。力の差がはっきり出ている場面です。

その最中、下人は、老婆の生死を自分の意志で支配できると意識します。すると、燃えていた憎悪が冷めていく。残るのは、仕事をやり終えたときのような得意と満足だと書かれています。

あれっ。まだ、髪を抜いていた理由は聞いていないよ?

そうなんです。老婆の事情を知って理解が深まり、怒りが和らいだという順ではありません。相手を押さえたこと、自分が優位に立ったと意識したことの後で、気分が変わっています。ここを飛ばすと、次の説明が、最初の変化のきっかけだったように見えてしまいます。

下人は少し声を柔らげ、自分は役人ではなく、何をしていたか話せばよい、と伝えます。けれど、声が柔らかくなったことだけを見て、対等な相談になったとは読めません。直前に何をしたかを残したまま、その言葉を聞く必要があります。

老婆は、髪を鬘にするつもりだったと答えます。下人は、その答えが意外に平凡なので失望する。そして憎悪が、今度は侮蔑と一緒に戻ってくる。

ここでも、一直線ではないんだね。激怒して、話を聞いて、納得して終わり、という形ではない。優位を感じた満足、答えへの失望、冷たい見下しが挟まっています。本文を追うと、最後の行動までの気持ちを、一つの矢印だけでつなぎにくくなるんです。

気持ちの変化をノートにするなら、「何を知った後か」だけでなく、「何をした後か」も並べてみてください。腕を押さえる、太刀を示す、生死を握ると気づく、声が変わる。この順で置くと、下人の言葉と、すでに取った行動を一緒に見られます。

それは、日常の誰かの本心を見抜く方法という意味ではありません。この作品の中に書かれた動作と心の説明を、順番通りに読もうという提案です。「柔らかい口調の人は支配したい人」などの一般論へ持ち出さないでね。

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老婆の「仕方がない」を、自分が奪う理由へ向けてしまう

老婆は、髪を抜かれている女が、生前、蛇を干魚と偽って売っていた、と話します。そして、その女も生きるために仕方なくしたことだから悪いと思わない、自分の髪を抜く行為も同じだ、という筋道を立てます。

この箇所では、誰の説明を聞いているかを忘れないでおこう。蛇の話は老婆が下人へ語っている内容です。別の人がその場で確かめ、事実として証明する場面があるわけではありません。読書メモにも「老婆はこう語った」と主語を残すと、語りの階層が混ざりません。

また、老婆は、相手の女も自分の行為を大目に見るだろうと説明します。でも、その女が実際に許したという返事はありません。老婆が、自分の行いをどう理解してほしいかを述べている部分です。

下人はそれを聞くうちに、門の下では持てなかった勇気を得ていきます。ただし、その勇気は、老婆を捕らえたときとは反対の方向だ、と本文がわざわざ区別しています。

そのときの手にも注目してみよう。下人は老婆の話を聞きながら、右手で頬の面皰を気にしています。やがてその手を離し、老婆の襟へ伸ばす。冒頭にもあった小さな身体の描写が、相手を奪う動作へつながるんです。気持ちの説明だけを抜き出さず、手がどこからどこへ動いたかまで見ると、考えが行為になる瞬間を追えます。

ここ、同じ「勇気」という言葉でも、褒め言葉だと思って読まないでね。何をするための勇気なのかが、変わっています。

下人が次にするのは、老婆の衣服を剥ぎ取ること。自分もそうしなければ飢え死にするのだから恨むな、という方向へ、相手の説明を返します。老婆は自分の行為を認めてもらおうとして語ったのに、その理屈が、自分が奪われる場面へ向けられてしまう。

門の下では、手段を選ばないとすれば、と条件のところで止まっていた。ここでは、相手に理由を突きつけ、そのまま行動する。最初と最後を比べるなら、考えが似ているかどうかだけでなく、ためらいが残っているか、実際に何をしたかを見ると違いが分かります。

ただ、これを「老婆の説明が正しかったから、下人も正しく生きる決心をした」とまとめるのは、この作品を読むうえでは飛躍です。本文にあるのは、下人がどう行動したかと、その前後の心の動き。奪う行為が正当だったという判決を、読者が自動的に受け取る場面ではありません。

感想を書くなら、「勇気を得た」という言葉だけを抜かず、何をできるようになったのかを、次の動作まで添えてみよう。短い言葉の響きに引っ張られず、作品の中で担っている意味を考えられます。

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「下人の行方は、誰も知らない」。分かる行動と、書かれていない未来

下人は着物を抱えて梯子を下り、老婆は後から起き上がって門の下を覗きます。外にあるのは暗い夜。最後は、下人がその後どうなったか分からない、という一文で終わります。

ここで確かめられるのは、老婆から奪って去ったところまで。その後ずっと盗みを続けたのか、食べ物を得たのか、生き延びたのか、後悔したのか。今回読んだ本文は、そこまでを描いていません。続きを考えることはできるけれど、それを小説に書かれた結末と一緒にはしないでおこう。

読み終えて分からない部分が残ると、答えを埋めたくなるよね。でも、最後の未来を埋めないことと、途中の変化が何も分からないことは違います。ためらっていた人が、悪を激しく憎み、優位に立った満足を感じ、相手の説明を使って奪う。その経過は、かなり具体的に書かれています。

感想を一段落にまとめるなら、最初に自分が引っかかった変化を一つ選び、その直前の行動や言葉を添えてみてください。たとえば、怒りが冷めるのは老婆の事情を知る前だった、と気づいたなら、そこを出発点にできます。単に「人間の心は複雑だ」で終えるより、どの描写にそう感じたのかが伝わります。

今回の読解は、青空文庫の作品ID127、新字新仮名版を対象にしています。図書カードには底本がちくま文庫の全集であることや、初出の情報が示されています。別の版や教科書と比べる場合は、表記と底本を先に確認してね。この記事では初出版などとの異同を検証したとはしていません。

紙の候補として紹介した新潮社『羅生門・鼻』は、芥川龍之介の作品集です。楽天のbookfan掲載でも、同じ書名、新潮社、ISBN9784101025018を確認しています。本文の前後を自分で読みたいときに選ぶ関連書で、今回使った青空文庫版と紙面や注釈が完全に一致する保証ではありません。価格、販売条件、注文できる状態は購入時に確認してください。

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最後の一文が気になったら、いったん門の下の「すれば」へ戻ってみよう。最初には引き受けきれなかった行動を、最後にはしてしまっている。その間に誰の言葉があり、何を自分に都合よく使ったのか。

そこを一つずつ見ていくと、あの短い終わり方も、ただの説明不足には見えなくなってきます。未来を急いで足す前に、書かれている変化をもう一度。引っかかったところから戻って読めるのも、この短編の面白さだよ。

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この記事を書いた人

demoday編集室のアバター demoday編集室 DreamBeliever

人間関係や日々の気持ちを見つめ直すための言葉と考え方を取り上げる編集室です。言葉を引用するときは、出典を確かめて紹介します。

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